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医局人事から外れる不安|地方で精神科医が最初にすること

公開日 2026/08/07

医局を離れて地元・地方で働く精神科医は珍しくない。学会調査では31ヶ月で総合病院精神科の医師数が16.0%減少、精神科診療所が20.0%増加。医局が担ってきた症例相談・後方支援機能をどう作り直すか、一次情報をもとに整理した記事です。

要点

医局を離れる医師は、実際にどれくらいいるのか

日本精神神経学会が実施した調査(稲垣中ほか、精神神経学雑誌114巻12号、2012年発表)は、同学会の専門医試験申請者6,881名を対象に、2006年8月31日から2009年3月31日までの31ヶ月間の勤務先の異動を追跡している。 この調査によると、31ヶ月間で総合病院精神科に勤務する医師数は16.0%減少し、精神科診療所に勤務する医師数は20.0%増加した。さらに年代別に見ると、2006年8月時点で総合病院精神科に勤務していた医師のうち、医籍登録後11〜20年目相当(36〜45歳)の10.3%、21〜30年目相当(46〜55歳)の12.2%が、この31ヶ月の間に精神科診療所へ異動していた。調査を行った研究者らは、この異動の大半は開業によるものと推定している。 一方、大学病院精神科に勤務していた医師が精神科診療所に異動した率は、どの年代でも4%未満にとどまっていた。大学病院に比べて、総合病院精神科に勤務する中堅層の医師の方が、開業という選択に動きやすい傾向がうかがえる。 なお、この調査は都市部とそれ以外の地域での精神科医数の増減も検証しているが、都市部の精神科医数は2.2%増加、それ以外の地域は3.0%減少にとどまり、「都市部への集中が明確に進んだとまでは言えない」と結論づけられている。医局を離れた医師が必ずしも都市部に向かうわけではないことも、あわせて押さえておきたい。 このデータは2006〜2009年という、現在の新専門医制度(2018年開始)以前の期間のものである点には注意が必要だが、医局を離れて開業に向かう医師が一定数存在すること自体は、単なる印象論ではなく、学会の調査によって示された事実である。

なぜ地元に戻る、地方で働くことを選ぶのか

医局を離れる理由は人それぞれだが、医師全体を対象にした調査(m3.comキャリアデザインラボ、2021年、登録医師455人対象)では、地方移住を望む理由として「自然環境が豊か」(41.6%)に続き、「地元や地方の医療に貢献したい」(26.3%)、「ワークライフバランス」(25.4%)、「通勤が楽」(24.3%)が挙げられている。実家の医療機関を継ぐ、家族の事情で地元に戻る必要がある、といったケースも一般的に語られる理由の一つである。

この調査は精神科医に限定したものではないが、医局人事による配属先の決定に対して、「自分で働く場所を選びたい」という動機を持つ医師が一定数存在することは、精神科に限らず広く見られる傾向と考えられる。 年代別に見ると、20〜30代では地方移住に興味を示す医師が過半数を占める一方、40代以上では「興味がない」が半数を超えるという結果も示されており、地元・地方への回帰を考えるタイミングは、キャリアの早い段階に偏る傾向がうかがえる。

医局を離れることで、実際に何が変わるのか

医局人事から外れることへの不安の多くは、医局が実務上担ってきた機能を、自分でゼロから作り直す必要が生じることに起因すると考えられる。一般的に、医局が担ってきた機能には次のようなものがある。 ・人事異動・勤務先の確保:関連病院への赴任先を医局が調整してくれる仕組み ・症例相談・後方支援:判断に迷う症例について、上級医や同僚に相談できる関係 ・研修・学会派遣の仕組み:学会参加や研修の機会が医局を通じて提供される ・後任・応援医師の紹介ネットワーク:急な休診時に代診を頼める人脈 医局を離れると、これらを自分自身で構築し直す必要が出てくる。特に「困難な症例に一人で向き合わなければならないのではないか」という不安、「急病や休暇の際に代わりがいないのではないか」という不安は、医局を離れた医師からよく語られる懸念として一般的に知られている。 精神科医療の特性上、この不安は他科以上に大きくなりやすい面もある。 身体科であれば近隣の病院に紹介する形で対応できる場面でも、精神科では自傷他害のリスク評価や、入院が必要な急性増悪への対応など、判断そのものに専門的な相談相手を必要とする場面が少なくない。医局に所属していれば、こうした判断を先輩医師や同僚に相談できたが、単独開業ではその相談相手を自分で確保しておく必要がある。

不安にどう向き合うか

医局が担ってきた機能を個人で完全に代替するのは簡単ではないが、いくつかの現実的な選択肢がある。 ・地域の医師会・関連学会での関係構築:地域の精神科医療に関わる医師会・学会活動に参加することで、症例相談や連携先を新たに作っていく ・緩やかな移行:いきなり単独開業するのではなく、非常勤としての勤務や他院との掛け持ちから始め、段階的に地域での基盤を作る ・経営・事務の外部委託:開業に伴う経営・労務・広告等の実務を、税理士や専門業者に委託し、診療に集中できる体制を作る ・法人・グループへの参画:症例相談や緊急時のバックアップ体制をあらかじめ整えている法人・医療機関グループに、常勤・非常勤として参画することで、医局に近い後方支援機能を得る これらの選択肢は、どれか一つを選べば解決するというより、組み合わせて使うものである。例えば、開業前の一定期間は非常勤として複数の医療機関に関わりながら地域での人脈を作り、並行して地域医師会の活動に参加し、経営面は専門家に任せる、といった形で、少しずつ「一人で抱え込まない」体制を作っていくのが現実的である。 最後の選択肢について触れると、リカレ協会が運営するエニキュア・対面クリニックも、こうした「医局を離れた後の後方支援」を意識した体制を取っている。困難症例のパス先や緊急時の対応体制について、参画前に確認できる仕組みを用意している。医局を離れる・離れないにかかわらず、どのような後方支援体制があるかを事前に確認しておくことは、選択肢を検討するうえで実務的な視点になる。

まとめ

医局を離れて地元・地方での勤務や開業に向かう精神科医は、学会の調査でも一定数確認されており、特に医籍登録後11〜30年目相当の中堅層で目立つ傾向にある。 一方で、医局が担ってきた人事異動・症例相談・後方支援といった機能は、離れた後に自分で作り直す必要がある。段階的な移行、地域での関係構築、外部委託、法人・グループへの参画など、いくつかの現実的な選択肢を組み合わせることで、その負担を軽減できる。

一次情報

稲垣中ほか「わが国における精神科医・精神科医療の実態把握に関する調査結果(その2):精神科医師の職域および地域の異動に関する検討」精神神経学雑誌114巻12号(2012)1374-1384頁 「地方に住みたい!医師が都会を離れる理由―医師455人アンケートvol.1」m3.comキャリアデザインラボ(2021年)

COIについて

本記事はリカレ協会が制作し、エニキュアが提供するコンテンツです。特定の医師個人の体験談・インタビューではなく、学会誌の調査論文および医師対象アンケート調査に基づく一般的な情報整理として構成しています。

医局を離れた後の働き方の選択肢の一つとして、エニキュア・対面クリニックの診療体制についても、rikare.jpで詳しい情報をご覧いただけます。