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精神科の処方薬TOP10|地域で見る処方傾向の違い

公開日 2026/08/05

要点

厚生労働省のNDBオープンデータ(2023年4月〜2024年3月、全国の外来院外処方)を集計すると、催眠鎮静剤・抗不安剤および精神神経用剤に分類される内服薬のうち、処方数量が最も多いのはエチゾラム(デパス等)で全体の9.9%、次いでゾルピデム酒石酸塩(マイスリー等)7.2%、ブロチゾラム(レンドルミン等)5.2%と続く。上位10成分で全体の約48%を占める。 地域別に見ると、エチゾラムの構成比は東京都8.9%に対し大阪府10.9%、ブロチゾラムは東京都4.5%に対し福岡県7.5%など、同じ成分でも地域によって構成比に明確な差がある。

全国TOP10(処方数量ベース)

対象は、NDBオープンデータの薬効分類「112 催眠鎮静剤,抗不安剤」「117 精神神経用剤」に該当する内服薬(錠・カプセルのみ、外来院外処方分)。医薬品コード単位では先発品・後発品(メーカー違い)が別品目として計上されるため、本記事では成分名を基準に集計し直している(統合方法はページ末尾に記載)。

上位3成分(エチゾラム・ゾルピデム酒石酸塩・ブロチゾラム)はいずれも催眠鎮静剤・抗不安剤(ベンゾジアゼピン系またはその類似薬)であり、抗うつ薬・抗精神病薬に分類される精神神経用剤(デュロキセチン、クエチアピン、アリピプラゾール等)よりも数量ベースでは上位に位置する。これは処方数量が「1回あたりの処方日数×錠数」の積み上げであるため、頓用・短期処方が多い睡眠薬・抗不安薬が数量的に積み上がりやすいという集計上の特性も影響している可能性がある。 TOP10のうち7成分(エチゾラム、ゾルピデム酒石酸塩、ブロチゾラム、アルプラゾラム、ロラゼパム、エスゾピクロン、フルニトラゼパム)が睡眠薬・抗不安薬、残り3成分(デュロキセチン、クエチアピン、アリピプラゾール)が抗うつ薬・抗精神病薬に分類される精神神経用剤である。抗うつ薬・抗精神病薬は継続的な服薬が前提となる薬剤が多く、睡眠薬・抗不安薬は頓用や短期処方が混在するため、両者を単純に「処方の多さ」として同列に比較する際は、この処方パターンの違いを踏まえる必要がある。

地域で見るとどう変わるか

対象6院の所在地に対応する5都府県(東京都・京都府・大阪府・埼玉県・福岡県)で、TOP10各成分の構成比(その都府県における催眠鎮静剤・抗不安剤+精神神経用剤の処方数量合計に占める割合)を比較した。

いくつかの成分で地域差が目立つ。ロラゼパムは東京都4.2%に対し京都府1.7%と、5都府県の中で最も差が大きい(約2.5倍)。ブロチゾラムは東京都4.5%に対し福岡県7.5%で、こちらも1.7倍近い開きがある。一方、デュロキセチンやクエチアピンのような精神神経用剤は、5都府県間の差が1ポイント未満に収まっており、地域差は睡眠薬・抗不安薬(催眠鎮静剤,抗不安剤)の方が相対的に大きい傾向がうかがえる。 なお、エチゾラムはどの都府県でも構成比1位を維持しており、地域差はあっても「最も処方数量が多い成分」という位置づけ自体は変わらない。一方で2位・3位の順序は都府県によって入れ替わる。東京都・大阪府・埼玉県・福岡県では2位ゾルピデム酒石酸塩・3位ブロチゾラムの順だが、京都府だけは2位ブロチゾラム・3位ゾルピデム酒石酸塩と逆転している。同じ「上位3成分」でも、地域によって実際の構成順位は一様ではない。

データの限定事項(読み方の注意点)

この集計を読む上で、次の点に注意する必要がある。 <診療科を区別していない>:NDBオープンデータの薬効分類別集計は、処方した診療科が精神科かどうかを区別していない。催眠鎮静剤・抗不安剤(112)は内科等でも不眠・不安症状に処方されることがあり、本データは「精神科医が処方した薬」ではなく「精神科領域で主に使用される薬効分類の全国処方数量」である <処方数量であり、処方回数・患者数ではない>:集計の単位は錠数・カプセル数(処方数量)であり、何人の患者に処方されたか、何回処方されたかを示す「頻度」データではない。短期処方が多い睡眠薬と、長期処方が多い精神神経用剤とでは、同じ患者数でも積み上がる数量が異なりうる <錠・カプセル以外の剤形は集計から除外>:内用液・散剤・顆粒剤(「mL」「g」単位)は錠・カプセルと単位が異なり合算できないため除外した(除外分は全体の約1.5%) <集計期間は2023年4月〜2024年3月>:NDBオープンデータの公開には一定のタイムラグがあり、本記事執筆時点で最新の公表データがこの期間のものである。直近の処方動向とは異なる可能性がある

開業・処方設計への示唆

このランキングと地域差から言えるのは、精神科・心療内科の外来では、抗うつ薬・抗精神病薬よりも先に、催眠鎮静剤・抗不安剤(特にエチゾラム、ゾルピデム酒石酸塩、ブロチゾラム)が数量ベースで大きな比重を占めるという点である。これから開業・参画する医師にとっては、フォーミュラリ(採用薬リスト)や在庫・処方支援の設計において、この上位3成分への対応を最初に固めておくことが実務上の優先順位になりやすい。 また、地域によってブロチゾラムやロラゼパムの構成比に差があることは、開業予定地の処方文化(前医からの引き継ぎ処方や、地域の薬局在庫の傾向)を確認する際の一つの視点になる。全国一律のフォーミュラリを機械的に適用するのではなく、開業予定地の実態を踏まえた薬剤選定が実務的である。 なお、令和8年の医療法施行規則改正により、麻薬・向精神薬(本記事のTOP10に含まれる成分の多くが該当)はオンライン診療において「対面診療を一度も経ていない場合は再診でも処方不可」という制限が明確化されている。オンライン診療の活用を検討する場合は、この処方制限とあわせて体制を設計する必要がある(詳細は「オンライン診療で診られる疾患」記事を参照)。

まとめ

全国データでは、エチゾラム・ゾルピデム酒石酸塩・ブロチゾラムという3つの睡眠薬・抗不安薬が処方数量の上位を占め、上位10成分で全体の約半分を占める。地域別に見ると、エチゾラムはどの地域でも1位である一方、ロラゼパムやブロチゾラムの構成比には地域差が見られる。ただしこのデータは診療科を区別しない全国集計であり、「精神科医が処方した薬」を直接示すものではない点に注意して読む必要がある。

一次情報

・「NDBオープンデータ分析サイト 第10回」厚生労働省(処方薬・外来(院外)都道府県別薬効分類別数量、集計期間2023年4月〜2024年3月)

銘柄統合について

医薬品コード単位では先発品・後発品が別品目として計上されるため、本記事では成分名を基準に集計し直している。

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