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精神保健指定医と非指定医|令和8年度改定とキャリアのリアル

公開日 2026/07/22監修:徳山祥音(精神科専門医・指導医 / リカレ協会統括医師)
精神保健指定医と非指定医|令和8年度改定とキャリアのリアル

精神保健指定医と非指定医の差は、これまで措置入院や医療保護入院の判断権限という「できること」の差であることが多く、点数の差はそこまで大きくありませんでした。しかし令和8年度診療報酬改定は、この差を診療報酬の点数という「稼げる額」の差にまで広げています。 本稿では、指定要件や制度の基本説明は最小限にとどめ、令和8年度改定によって指定医の市場価値がどう変わったか、非指定医が実際の医療現場でどう扱われているか、そしてこの変化がキャリア選択にどう跳ね返るかを、一次資料と現場の反応から整理します。

令和8年度改定で、指定医と非指定医の点数差はどこまで開いたか

令和8年度診療報酬改定では、通院・在宅精神療法(初診日に60分以上行った場合)の点数が、精神保健指定医は650点、それ以外の医師は550点となりました(改定前はそれぞれ600点・550点)。新たに設けられた30分以上60分未満の区分は、指定医が行った場合のみ550点を算定できます。さらに、初診で情報通信機器を用いた精神療法を行った場合の評価(60分以上566点・30分以上479点)も新設されましたが、これも精神保健指定医による場合に限られています(出典:厚生労働省保険局医療課「令和8年度診療報酬改定 重点的な対応が求められる分野(精神医療)」)。 この点数差以上に実務への影響が大きいのが、非指定医が一定の施設基準を満たさない保険医療機関で通院・在宅精神療法を行う場合、点数が所定点数の100分の60、いわゆる「4割減」になるという規定です。しかも今回は経過措置が設けられておらず、6月の改定実施と同時に適用されています(出典:兵庫県保険医協会「兵庫保険医新聞」2026年5月5日号)。減算を免れるルートは2つあります。1つは、精神科救急の指定施設や精神病床を有する特定機能病院、児童思春期関連加算の届出機関など、一定の要件を満たす医療機関で行われる場合。もう1つは、令和8年5月31日時点で精神医療に20年以上従事し、かつ過去1年間に医療観察法対象者の診察または精神保健医療に関する行政機関の業務を行っている医師による場合です(出典:厚生労働省保険局医療課資料)。減算対象になった場合は、1回の処方で3種類以上の抗うつ薬または3種類以上の抗精神病薬を投与すると算定自体ができなくなり、公認心理師による心理支援加算も併算定できません(出典:同資料、兵庫保険医新聞)。 指定医の存在感は、施設基準の面でも強まっています。新設された精神科地域密着多機能体制加算(1日につき最大800点)は、常勤の精神保健指定医が2名以上配置されていることを主な施設基準の一つとしており、既存の精神科救急・合併症入院料も同様に常勤指定医2名以上の配置を求めています。公認心理師による心理支援加算にも、専任の常勤指定医1名以上の配置という施設基準が新たに加わりました(出典:同資料)。指定医は「行動制限や措置入院を判断できる医師」から「配置していなければ加算そのものが取れない医師」へと、病院経営に直結する存在に変わりつつあります。

非指定医は市場でどう扱われているか——開業・非常勤・専門領域による明暗

この改定は、医師の間でも評価が分かれています。現役の精神保健指定医によるnote記事「非指定医、通院・在宅精神療法4割減の衝撃と真実」では、非指定医を多く抱えるチェーン系の精神科クリニックが相当の打撃を受けるとの見立てが示され、非指定医のまま開業・勤務を続けるハードルが大きく上がったこと、指定医取得の重要性がこれまで以上に高まったことが論じられています(出典:note「精神科医ぽろにあ」2026年4月15日)。 一方で、全国保険医団体連合会は2026年5月25日付の要望書で、この減算規定と施設基準要件そのものに異議を唱えています。指定医資格は本来、行動制限や措置入院の判断権限のための制度であり、外来・在宅での診療技能を評価するものではない、というのが要望の骨子です。同要望書は、児童精神科医の多くが非指定医である点を特に問題視し、自閉症スペクトラム障害や注意欠如・多動性障害など児童精神疾患の診療への影響を懸念しています(出典:全国保険医団体連合会「要望書」2026年5月25日)。 背景には需給のひっ迫もあります。同要望書が引用する資料によれば、精神科の患者数は2017年の419.3万人から2023年には603万人に増加し、初診までの平均待機日数は20.9日に達しているとされています(出典:同要望書)。患者が増える一方で、指定医でなければ収益性の高い診療を維持しにくい構造が強まっており、非指定医は専門領域や勤務形態によって明暗が分かれる状況に置かれています。

この変化はキャリアにどう跳ね返るか

こうした変化は、キャリアの判断にも直接跳ね返ります。常勤先を選ぶ場合、令和8年度改定後は、その病院がどの入院料・加算を目指しているかに加えて、指定医の配置人数が採用の決め手になっているかまで確認する価値があります。地域密着多機能体制加算や精神科救急・合併症入院料のように常勤指定医2名以上の配置が施設基準になっている病院では、指定医であること自体が採用条件になりやすいためです。 非常勤や開業を軸にキャリアを考える場合は、通院・在宅精神療法の点数差がそのまま収益に反映されるため、指定医を持たないまま非常勤を掛け持ちする働き方の設計には、以前より慎重な収支計算が必要になります。児童精神科など非指定医の比率が高いとされる領域では、今回の改定の影響がより直接的に及ぶ可能性がある点も踏まえておく必要があります。 一方で、経験年数による除外規定があるように、指定医を持たないベテラン医師のキャリアがすべて損なわれるわけではありません。自分がどの除外要件に該当しうるか、あるいは指定医取得を優先すべきかは、勤務先の施設基準や自分のキャリアステージによって判断が分かれます。柔軟な勤務形態を探しながら指定医としてのキャリアをどう積み上げるか、あるいは非指定医のまま働き方を設計するかは、具体的な条件を並べて考えるのが確実です。

よくある質問

Q.児童精神科医は今回の改定でどのような影響を受けますか。

A.全国保険医団体連合会は、児童精神科医の多くが非指定医である点を問題視しています(出典:同連合会「要望書」2026年5月25日)。児童精神科は、指定医取得の前提となる措置入院・医療保護入院症例に日常的に関わる機会が少ない領域とされており、この構造が今回の減算規定と重なることへの懸念が表明されています。

Q.減算を避けられる医師の条件はありますか。

A.2つのルートがあります。①精神科救急の指定施設や精神病床を有する特定機能病院など、一定の要件を満たす医療機関で行われる場合、②令和8年5月31日時点で精神医療に20年以上従事し、かつ過去1年間に医療観察法対象者の診察または精神保健医療に関する行政機関の業務を行っている医師による場合です(出典:厚生労働省保険局医療課資料)。該当するかどうかは個別の経歴と勤務先の届出状況によるため、契約前の確認が必要です。

Q.この改定に医師側から異議は出ていますか。

A. 全国保険医団体連合会は2026年5月25日付で、指定医資格は本来、行動制限や措置入院の判断権限のための制度であり、外来・在宅の診療技能評価とは無関係だとして、この減算規定と施設基準要件の撤回を求める要望書を発出しています(出典:同要望書)。制度上はすでに施行されているため、実務上はこの議論の帰趨とは別に、現行の点数体系を前提に働き方を判断する必要があります。