
「非常勤で働きたいが、実際どこまで時間の融通が利くのか分からない」——
そう感じる医師が最初に迷うのは、勤務先の場所や設備ではなく、稼働できる曜日・時間帯をどこまで自分で設計できるかという点ではないでしょうか。 本稿では、2024年4月に適用が始まった医師の時間外労働の上限規制を踏まえ、非常勤・オンライン診療を組み合わせた時間設計の実務論点を整理します。
医師の「柔軟な働き方」は、勤務地ではなく時間設計の問題である

「柔軟な働き方」は、在宅勤務やオンライン診療のように場所の自由度で語られることが多くあります。 しかし、日本の精神科医704名を対象とした全国調査では、46%がワークライフバランスの維持に困難を感じており、情緒的消耗感が高い水準にあった医師は21%、脱人格化は12%と報告されています。また、精神科医のバーンアウト有病率を世界全体で37.5%とするメタ解析もあります。 出典:Umene-Nakano W, et al. PLOS ONE. 2013( https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23418435/ ) 出典:Johnson KL, et al. J Clin Psychiatry. 2025( https://www.psychiatrist.com/jcp/prevalence-burnout-psychiatric-doctors-before-after-covid-19-review-meta-analysis/ ) 場所の制約が緩和されても、稼働時間や稼働曜日を自分で決められなければ、消耗の構造は変わりにくいと考えられます。非常勤・オンライン診療を組み合わせる働き方を検討する場合も、まず整理すべきは「どこで働くか」より「いつ、どれだけ働くか」です。

2024年4月開始の時間外労働上限規制と、非常勤・副業を組み合わせるときの制約

2024年4月、医師の時間外労働の上限規制の適用が始まりました。 出典:厚生労働省労働基準局「医師の時間外労働の上限規制に関するQ&A」 原則となるA水準は、年960時間・月100時間未満が基本です(例外あり)。地域医療の確保に欠かせない機能を持ち、都道府県の指定を受けた医療機関(B水準・連携B水準)や、研修医など短期間で集中的に症例経験を積む場合(C水準)は、年1,860時間まで認められています。 注意:非常勤・副業を組み合わせる場合、労働時間は勤務先ごとではなく通算で管理されます 非常勤・副業を組み合わせて働く場合に見落とされやすいのが、労働時間の通算です。厚生労働省のQ&Aでは、ひとつの勤務先だけでは時間外労働が月100時間未満でも、他の勤務先の労働時間を通算して月100時間以上が見込まれる場合は、勤務するすべての医療機関で面接指導を実施するとされています。 つまり、非常勤先を増やして時間の柔軟性を追求するほど、通算された労働時間の管理と向き合う必要が出てきます。時間の自由度を設計する際は、この上限規制の枠内でどう組み立てるかが起点になります。

非常勤・オンライン診療を組み合わせた時間設計の実務論点

非常勤・オンライン診療を組み合わせるときに整理しておきたい論点は、主に次の3つです。 STEP 1 稼働日数・時間帯の固定度合いを確認する。オンライン診療は対面診療に比べて診療時間帯の設定に融通が利きやすい形態ですが、制度上一律に保証されたものではありません。稼働できる曜日・時間帯の希望がどこまで反映されるかは契約先の医療機関の運用方針によって異なるため、契約前に確認します。 STEP 2 複数勤務先の労働時間を自己申告し、通算管理される前提で設計する。前章の通算ルールにより、非常勤先を複数持つ場合は各勤務先での労働時間を申告し、通算で管理されます。面接指導の対象になること自体は健康確保のための仕組みであり、避けるべきものではありません。 STEP 3 報酬水準は契約前に個別確認する。非常勤・オンライン診療の報酬は、医療機関の規模・診療科・契約形態によって幅があります。求人票の金額だけでなく、稼働時間あたりの実質的な単価や、稼働量を増減した場合の条件まで、契約前にすり合わせておくと安心です。

常勤か非常勤かを判断するときの3つの軸

常勤・非常勤のどちらが向くかは、単純な収入比較ではなく、次の3つの軸で整理すると判断しやすくなります。 1. 時間の裁量 稼働曜日・時間帯をどこまで自分で決められるか。 2. 責任範囲 困難症例やオンコール対応をどこまで一人で引き受けるか。常勤の方が組織的なバックアップを受けやすい場合がある一方、非常勤でも困難症例を常勤医へ引き継げる体制の医療機関もあります。 3. ライフイベントとの両立 育児・介護などに応じて稼働量を柔軟に相談できる契約かどうか。相談のしやすさは医療機関ごとに異なるため、非常勤・オンライン診療を検討する際の重要な確認項目です。 いずれの軸も、「まず話を聞く」段階で、稼働条件・労働時間の通算・報酬の3点をすり合わせておくと、契約後のミスマッチを避けやすくなります。

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よくあるご質問
Q.非常勤とオンライン診療を組み合わせると、労働時間はどう管理されますか。
A.複数の勤務先がある場合、厚生労働省の上限規制では労働時間を通算して判断します。ひとつの勤務先だけで月100時間未満でも、通算で100時間以上が見込まれる場合は、勤務する全医療機関で面接指導が実施されます(厚生労働省労働基準局「医師の時間外労働の上限規制に関するQ&A」、2024年4月適用開始)。
Q.非常勤・オンライン診療の報酬相場はどのくらいですか。
A. 医療機関の規模・診療科・契約形態で幅があり、精神科領域に特化した公的な報酬統計は現状確認できていません。相場感だけで判断せず、個別の契約条件(単価・稼働量の増減条件)を確認することを推奨します。
Q.子育てと両立しながら非常勤で働くことはできますか。
A. ライフイベントに応じて柔軟に相談できる非常勤契約は選択肢のひとつです。稼働量の調整幅は医療機関ごとに異なるため、家庭状況に合わせた働き方を相談しやすい契約先かどうかを事前にすり合わせることが重要です。
